院長の「なんていうか」日誌

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大ケガ

いつもみやけゆう歯科医院へ
定期的に健診に来るKちゃん(5歳)は、
母親の高い関心もあって
むし歯が出来ないよう
歯みがきに努めているが、
過日に来院した際、
アゴの骨を折っちゃって・・・。」
と母親が言い出してビックリした。


[外傷]という事故的な状態は
人間の口の場合は上アゴの前歯に多い。
ちょっと飛び出てるからである。
人の下あごの骨はとても硬いし、
重要な頭部に含まれているので
折れることは少ないのだが、
Kちゃんは自転車で転倒し
下あごを強打し骨折していた。



三宅が外科を専攻していれば
沢山診ることもあったやも知れぬが、
18年の歯医者人生でアゴの骨折に
出会ったのは2例目である。
三宅が開業する10年以上前、
代診をしていた頃に
成人女性が馬に蹴られたために
左側で下あごを骨折したもので、
その人は大学病院で診てもらうことになった。


Kちゃんのアゴ
既に他の病院で固定され、
5歳という年齢もあってか
骨折が治ってから三宅の所へ
来たのである。


「痛いからこっち触らないで。」


右頬を押さえてKちゃんは言った。
右側を折ったので当然かと思ったが、
口の中を診て、
そうそう驚かない
鈍感な三宅も珍しく驚いた。
乳歯が何本も割れているのである。


前歯が割れるのはよく見ているが、
奥歯で乳歯が割れているのいうのは
あまりお目に掛かれない。
割れ方はピザを切ったような
2等辺三角形のパーツが
いくつもあったり、
歯の噛む面の上から先端に向かって
割れている歯もあった。
どちらもむし歯によって歯が欠けるのとは
明らかに異なる特別な
状況であった。


しかし、Kちゃんはケロッと、
「歯みがきするの?」と
屈託ない笑顔を三宅に投げかけ、
ころころと笑っている。
「自転車で転んだ時、泣いたでしょう?」
との三宅の問いに、
「ううん、泣かなかった。自分のせいだし。」
と、平成の若者らしからぬ
見上げた回答が帰ってきた。
たいしたものだ。


そのピザのように割れた歯は
どう考えても歯の神経まで
破折していると思われたので、
母親に説明した上で
急遽神経を取る処置をすることになった。


麻酔をして削ろうかという
その時、気丈なKちゃんは、


「それ嫌だぁ・・。」と


涙声になり、


「頬が痛いの、きっと歯が割れているからだよ。
 だからちょっとがんばって。」


という三宅の言葉に
さらに声をあげて泣き出してしまった。


アゴの骨を折る大ケガをして、
折っても、病院で処置しても
泣かなかったというKちゃんは
歯医者で泣いてしまった。


大ケガよりも歯医者のほうが
怖いのだろうか。




神経を取り終わり、
Kちゃんはすぐさま
余裕を取り戻し笑いだし
こう言った。




「今日、なんかくれンの?」