「三宅先生ですよね」
いつもと違うガソリンスタンドに寄った三宅は
スタンドのお兄さんにそう声をかけられた。
「ええ・・・」
「10年ほど前に先生の歯医者に行っていたんです」
確かに『彼』であった。
10年前、
いつも言葉少なに治療を受け、
最後にちょっと「はにかんで」
三宅に手を振って帰っていた『彼』だった。
自分の患者から声をかけられるのは、
特に小児歯科医として
何よりのご褒美である。
歯医者やっていて良かった。
別れ際に彼に声をかける。
「頑張ってね。お母さんによろしく」
「ハイっ♪」