朝の見回りは三宅の日課である。
医院の周りを見回ってふと空を見渡すと
西の空に見える上弦の月が
雲と相まっていい具合で浮かんでいるのであった。
これは写真を撮っちゃうのである。
月は35万キロも彼方にあるので、
本当は常に三脚を持って撮影に臨むべきである。
ちょっと動けばすぐにぶれてしまう。
でも三脚を出すのが無精にも面倒くさい。
因って脇を締めて建物に寄り掛かり
微動だにしないように朝の月を撮るのだ。
ところが出勤してきた歯科衛生士主任の[ささき]が
中庭で固まっている三宅に気づくのが遅れ
大きな声でこう叫んだ。
「わっ!ビックリしたァ。人がいたァ!」
ビックリしたのは三宅で、
そのいた人も三宅です。