朝の見回りをすると、
一匹のハエが院内に潜り込んでいる。
けしからん。
ここは医療機関である。
時間があれば三宅は執拗に追いかけて、
追い出すか仕留める。
仕事柄『ムシ』は許せないのである。
しかしそのハエの動きは緩慢であり、
三宅が難なく追い出してしまった。
そして彼は医院の窓枠でじっとしていた。
ああ、もう秋に近づいたので
元気がないのであろうと妙な同情をした。
短い夏を終えようとしているのであろう。
口の中のムシなら一切同情はしないのだが。
家人にこの話をしたら、
「ハエで秋を感じるなんてねぇ…」
と目を丸くされた。
やれ打つな ハエが手をすり足をする
一茶
これは夏の季語か。