子どもの歯を治療する際に
多くの場合気をつけなければならないのは
『子どもの身体が動いてしまうこと』である。
ほとんどの場合
歯科の治療はとても細かいので、
子どもがちょっと足でも動かしてしまうと
即座に頭が揺れて歯も揺れるのである。
この間診察した子どもは
機嫌は良かったが手足が動いてしまう子であった。
動くのは仕方がないのだが、
三宅は苦戦気味であった。
次の瞬間にその子の母親が言った。
「棒になって!」
『棒!?』
三宅は心の中で呟いた。
慣用句で『足が棒になる』とはあるが、
歯科治療の場面で足が棒になるわけはない。
「いいね、棒になってるよ!」
謎の声かけにその子は診察台の上で
ピッと気を付けをした。
ハハァ『棒のように直立不動になること』が
『棒になる』なんだ・・・何て面白いんだろう。
ぶっ。おもわずマスクの下で吹き出しそうになった。
比喩表現が三宅には新鮮だ。
わかりやすい上に、
間違いなく直立不動になる魔法の言葉だ。
おっかしー。
三宅が笑っていると、
母親がまた言った。
「こん棒だわ!」