ソリに乗って

三宅が幼少の時分、

お風呂に入ることは一大イベントであった。

そもそも自宅にお風呂があった家も

そう多くはなかった時代である。

三宅の実家のまわりに

いくつかの銭湯があったのを覚えていて、

時折、家族で入浴しに行った。

家よりも広々とした銭湯は好きだったのである。

真冬に三宅ら兄弟をソリに乗せて

両親に引かれて銭湯まで通ったのだ。

前後のことは思い出せないが、

兄とソリに乗ったあの真冬の道が

それほど寒かったとは今考えても想像できない。

街路灯に照らされて、

父に引かれてゆっくりと進む帰り道。

私がいつも思い出すのはその光景である。