「是非掲載させてください」
やや早口の三宅より若いと思われる男性が
電話口でそうおっしゃった。
電話の主は東京にある雑誌社の
『なんとかグラフ』の記者で、
「先生の医院がすばらしいと伺いました。
ぜひ取材させてください。」
要するに取材依頼らしいのだが、
有名俳優が三宅の歯医者に来てインタビューを行い、
それを全国誌に載せるというものだ。
有名俳優なので少し料金がかかるというものである。
さて、読者諸氏はどうお考えになるであろう。
そもそも東京の雑誌社が
みやけゆう歯科医院のウワサを聞きつけたというのが
怪しい以前の話である。
しかし人気俳優が取材に来るという話は
なんとも魅力ある響きであった。
聞けば三宅も知っている
頑固親父を演じる様な有名俳優が来るというのだ。
結局、このお話は丁重にお断りした。
俳優さんには会ってみたかったが、
全国誌とは恐れ多い。
第一、どう考えても取材というより広告である。
しかし断ってから残念な気持ちになった。
三宅が小学生の頃になりたかった職業は役者であったから、
話を聞いてみたかったのである。
ああ、失敗したか・・・。
ところがこの話には後日談がある。
三宅が研修会で出張したとき、
羽田空港で搭乗口の列に、
その俳優が三宅の前に並んでいたのである。
『あああ・・・』
恐らく例の取材であろう。
握手を求める勇気はなかったが、
彼の後ろに並んだだけで
三宅は満足してしまった。
なんていうかお得である。
