「すみませーん」
だれだろう。三宅が本屋で本を探していると、
結構離れた位置から三宅を呼び止める初老の男性が
早足で近づいてきた。
「すみません、クロスワードパズルの本はどこですか?」
これはヤバい。
この人は三宅が本屋の店員だと
明らかに勘違いしているのである。
もっとヤバいことに、
三宅はクロスワードパズルの本のありかを
知っているのだった。
この場合、
このあと三宅が取る行動は大きくみて2つであろう。
プランA。
即座に店員ではないことを告げ、
その場をすぐに立ち去る。
・・・なんだか冷たい気がする。
プランB。
単に三宅個人に訊いてきただけかもしれないので、
クロスワードパズル本のありかを
正確に教える。
・・・これは後に『詐称』に問われないか不安が残る。
しかしこの人の本を探す所要時間は
大幅に減るだろう。
さぁ困った。と思っていたところ、
「アンタ、店員さんじゃないの?」
「店員ではありません」
初老の男性は真顔になり、
小さな声で「すみません」と言って
どこかへ行ってしまった。
ドギマギしているうちに
話は流れてしなったなァ。