三宅が子どものころは
DVDはおろかビデオテープもなかった。
ゆえに好きなテレビ放送を取っておきたいと思えば、
目を見開き画面を凝視して
細大もらさず脳裏に焼き付けねばならなかった。
辛うじてTV番組の記録を個人で出来たのは
『カセットテープ』であり、
TVのスピーカーにカセットデッキを隣接させ、
好きな番組を録音するのである。
もちろんアナログだ。
当時のカセットデッキのマイクは貧弱であり、
良い状態で音を拾うためにはTVの音量を
可能な限り大きくせねばならぬ。
そんな方法を用い兄のデッキで
『レインボーマン』を録音していた際、
番組最後のエンディング録音中に、
父が隣の部屋から大声でこう言った。
「うるさいぞよ！！」
うるさいのは父である。
三宅は兄と顔を見合わせて
その録音の失敗を声もなく嘆いた。
しかし、
その父の声はレインボーマンのエンディングと
ピタリ符合してシニカルなセリフのようであり、
後からその録音を聞いて
兄とゲラゲラと笑い転げた。
あの録音テープはどこへ行ったか。
