院長の「なんていうか」日誌

みやけゆう歯科医院のオフィシャルページ

500ページの夢の束(原題:Please stand by 2017年 アメリカ)

f:id:miyake-yuu:20211130200215j:plain

「航海日誌。最後のログ。エンタープライズは破壊されたらしい。

 生存者はスポックと私だけ・・・」

 

そんな独白から始まるこの映画は

SFでもなんでもない。

アメリカに住む女性を描いたものだ。

 

              ◆

 

主人公ウェンディは21歳の女性。

自閉スペクトラム症を持ち

コミュニケーションが苦手な彼女は、

アメリカのSFドラマ「スタートレック」の大ファン。

 

肉親と離れグループホームで生活する彼女だったが、

ある日テレビでスタートレックの脚本コンテストがあることを知り、

渾身の脚本500ページを書き上げる。

しかし締め切りに間に合うように

投函できなかったことを知って絶望するウェンディ。

ところが、ある朝ウェンディがいなくなっていることに気づいて

周囲は大騒ぎになる。

ウェンディは映画会社へ直接脚本を届けるため

長距離バスに乗ったのだが・・・。

    

              ◆

 

全編を通して特殊な事象は起きない。

しかしリアルに考えると自立支援を受けている

21歳の女性が失踪するのは十分な事件であろう。

その旅は当然のように問題が起きる。

ハラハラして目が離せない。

 

肉親の姉がどうしてウェンディと

一緒に暮らせなくなったのかなど、

ウェンディを取り巻く人々にも悩みがあり、

それらを取りまとめたエッセンスが

スタートレックなのである。

 

ある程度スタートレックを観ていた人には

練り込まれた脚本に驚くだろう。

ハリウッドの映画にはスタートレックを

エッセンスに入れる作品(「ターミナル」など)が

多々みられるが、この映画はその最たるものだ。

オタク路線に走ることなく

一つの作品として完成度が高い。

 

名子役『ダゴタ・ファニング』の

すばらしい演技も見ものである。

 

邦画タイトルがミスリードな気がする。

原題の「Please stand by(そのまま待機してください)」は

物語の重要な部分で登場する言葉であり、

モチーフとしたスタートレックでも象徴的な言葉。

何を待機するのか。

そこがこの映画の主題なのだろう。

そう考えると冒頭の『エンタープライズ』は

どういう意味なのか。

スポックは誰か・・・。

なんて深い作品なのだろうと感嘆する。

 

大した特撮もないし、

スタートレックを見ていないと

淡白な作品にも思えるかもしれない。

日本でも公開されたものの全く話題にならなかった。

しかしこういう妙味ある実直な映画を世に送り出せるハリウッドは

やはりすごいと言わざるを得ない。

 

ハートウォーミングな作品だ。

もう一度心して観よう。

 

 

 


www.youtube.com